ENo.0144　ラスティ・ネイル

　はるか昔、神を誑かし、怒りを買い、下半身を蛇に変えられた女がいた。
　彼女は神を憎み、己に呪いをかけ、神が作りし人間の血を飲まねば生きられない身体になる代わり、強力な魔力と他を惑わす能力を得た。
　それは後にラミアと呼ばれ、人喰らう化け物として畏れられるようになる―――。





　といった神話も忘れられた現在。
　とあるラミアは慟哭する。
「もう、こんな集落やってられますかー！」

　今日もお日柄良く、彼女のいるラミアの集落では若きラミア達が己の欲望のまま、男を惑わしてはいろんな意味で食べちゃう酒池肉林を繰り広げていたところ


　に、冒険者がいつものように討伐に来ていた。


「今回、何人死にましたか！？　いい加減学んでください脳足りん共この野郎！」

　せっかく討伐に来た冒険者たちに頭を下げ、帰ってもらう手筈にしたはずだった。
　しかし学ばぬラミア達が油断した冒険者たちを魅了、そのまま頂くという何度も繰り返された光景にとあるラミアは嘆いた。

「いい加減にしてください！　また討伐隊組まれるじゃないですか！　私は静かに暮らしたいのですよ！」

　嘆くラミアに対して、また最長老が怒っているわとくすくす笑うバカなラミア達。

「わかりました。私はもうここから出ていきます。勝手に全滅してください。もう知りませんからね！！」


　とあるラミアはそう言い残し、集落を離れ旅にでる。
　彼女の名はラスティ・ネイル。祖母に土の精霊を持ち、自然から魔力を得る能力を得た代わりに魅了の力を失ったラミア。
　そのおかげか、人を襲うことをしなかったため無駄に長生きし、気付けば十数世代と集落を見守る者となっていた。

　自分の友だちの子孫を見続けるのについに嫌気がさしたのだろう。
　彼女は家出同然に旅に出るのだった。





　静かに、人と平穏な関わりを持つために。