ENo.0031　紡糸神璃

『え？シノリ、お前ふざけてんの？』
「ふざけてないですからね！？」

開店前の隙間時間を使って、師匠へ報告を入れたシノリがまず最初に言われた一言はそれだった。

『服以外のものまで置いてどうすんの。お前は装飾師でしょう？』
「うう……そうはいったって、ある程度お店が落ち着くまでは他のものも売らなきゃやっていけないですって……」

それは、シノリが改めて出した結論だった。
はじめてお客さんを迎えた日、他の店の様子も少しだけ見ることができたのだが、他の店は様々なものを売って見事に対応しているように見えた。
その環境の中で、いきなり専門店のようなことをはじめても――恐らく、きっと、今のシノリの力では競争に負けるに決まっている。
それだったら、ある程度整ってくるまでは他のものも売っていく方針のほうが、多分、きっといい。
シノリがそう必死に説明すれば、今頃電話の向こうで頬杖をついているだろう師匠が唸るような声を出した。

『それもそうか。イストワールじゃ装飾師がある程度知られてるからなんとかなるけど、そっちは全く知られてないものね』
「そうでしょう？」
『よし、ならある程度落ち着くまで服以外のものを売ることを許可するわ。ただし、少しずつ減らしていきなさいね。あと飲食物は駄目』
「え、なんでですか」
『あんた、商品汚す気？』
「……あ」

溜息混じりの呆れたような声に、素で声が出た。
確かに商品を汚してしまう可能性があるものを置くわけにはいかない。

『……貴女って時々抜けてるわよねぇ』
「ううう……い、言わないでください……」

きっと、にやにやしたあの笑顔を浮かべているのだろう。
自分一人しかいない店内のカウンターで、シノリは電話を片手に突っ伏した。