ENo.0100　B・ミナスジェライス兄妹

業務日誌
2日目
記入：臨時店長リオ・バーントイエロー・ミナスジェライス

シトリン・マーケット配属２日目。今は充電ケーブルに繋がりながらこれを書いている。おれ達は食事でもエネルギー補給ができるけれど、変換炉を稼働する分エネルギーを食うから、こうして充電する方が効率がいい。フル充電しておけば食事なしでも、おれなら閉店までは持つ。でも妹達はおれよりバッテリーの容量が少ないから、途中で休憩を取らせる必要があるだろう。
二人はまだ寝ている。もう少しで開店だから、そろそろ起こさないといけないな。

読み返していたが、昨日の日誌の末尾が酷いことになっていた。と言うかこれを書いた記憶がない。おれはどうも、よほど疲れていたらしい。
と言うのもコンビニ経営とやらは本当に色々なことが起こって、発注ミスだとか、スタッフが足りないとか（どこぞの魔王が貸してくれているという自動人形だけではとても足りない）レジスターが故障して直したと思ったらカーニバルが店の中に突っ込んできたり店の前を占拠されたりとか（あいつら業務妨害で訴えられないのかな）こうして書き連ねるだけで疲れてくる。ヴェラとアニカの悲鳴におれが飛んで行って頭を下げる、ということを繰り返していた気がするが、どんな風に謝ったり対処したりしたのかは自分でも覚えていない。あまりに疲れるとサイボーグでも記憶が飛ぶのかもしれない。
三人と一機で一つだった頃は、機体のバーントイエローが大半のことを記録してくれていた。今、あの多脚の機体はここにはない。ウォーハイドラは必要ない仕事だと聞いて来たものだから置いてきてしまったのだ。彼はまだ、霧深いあの世界に残っているのだろう。持ってきたところで、店の脇に置いておく訳にもいかないのだけれど。

そう言えば、気になることが一つ。ヴェラが妙な事を言い出した。仮眠室の前におれでもアニカでも自動人形でもない誰かが立っているのを見た、と。輪郭がはっきりせず、すぐ近くにいるのに焦点が合わなかった。声をかけようとしたらそのまま壁の中に消えたらしい。
この店にはおれ達と自動人形達以外に従業員はいないはずだ。おれが知る限りでは。
おれ達は今更幽霊なんて怖がりはしない（何せ三人とも一度死んでいる）。ヴェラの見間違いと切って捨てるつもりもない。ここは夕闇国、あらゆる世界の夕闇と繋がるゆらぎの国だ。夕闇は全ての境界を曖昧にする。物理的な障壁にとらわれない何かがやって来たって不思議はないだろう。
そいつは今回のコンビニ大量出店に伴う混乱（これをカオスと呼ばずして何と呼ぼう）に乗じ、店にちょっかいを出そうとしているのかもしれない。どう対処したものか、頭が痛い。魔除けの札でも探してこようか。