第3週目 小瀬青一郎の一週間
◆日記
864×3=2592 84×9=756 756-2592=-1836
1,836闇円赤字。『孤立と表象』は一週目の初動で刷り分も回収できなくてまあそんなもんできるわけないとはなからわかってはいたにしたってそれでも珍しさもあったのか4件引き取り手があったのは望外で、そうは言っても向こうの店先でどれだけ売れたんだかはわからずに少なくとも俺の店の俺の店頭に並んでいる売り分のはけ方を見る限りじゃあやっぱりこの夕闇国でも本は売れない。それでもこの国は異様な買い物の熱気があってあきらかに読まないだろという客だっていくらかひととおり書店の中身を吟味して時と場合によっては二冊も三冊も買っていってそういう購買意欲それ自体は幻想みたいなものを抱かせないわけじゃない、この国では本が売れている。カール・ウィックマンなんて聞いたこともあるんだかないんだかわからない名前をしかしその現象学なんてポスト構造主義にボコボコにされた古臭い学問のしかしそれを批判的に回収して揚棄しようとした学者の本を揚棄なんてこれまたカビの生えた語彙も気に留めずにその理論的な骨組みだけを虚心坦懐ながめた客がひとつ読んでみようかと買っていくなんて理想的な本のそりゃあ売り方だけどどうしたって本が本として求められているのかそれとも鍋敷きやドアストッパーにでもなったのかはわからずに、少なくとも俺の国でもある一時期には出版華やかなりし頃があってけれどその頃に売れた本がすべて読者を持ったかというと疑わしい。本はともすればファッションになったしインテリアになったしそれを小脇に抱えながら上滑りした議論を交わすのはひとつのブームでもあったし結局のところ読者と読者でないものをすべて含んだものが出版の売上ということになるわけで着ない服や着けないアクセサリーを買う人間がいるように読まない本を買う人間がいたっておかしくはないし棚にずらりとならべて客を威圧するのに本ほど適したものはそりゃないわけだから経済的に豊かな時宜に適えば本は知じゃなしに権力として買われていくし買われていった先で仕事をする。優れた本はちゃんとした読者をもちろん持っていてそれについてごく狭い界隈でだって熱い内容的な議論が交わされてもいるし次巻を心待ちにする読者がいて、でもその読者の経済力と売れ方では狭い界隈の狭い需要を護り続けることができなくて読者は自分たちが本を読みたくても読みたい本を守ることができずだからって売れ筋の本が悪いわけじゃあもちろんないし特集やアイドルを劇薬にできる雑誌ならともかく単行本でウケ狙いで書いて売れるほど読者も世界も甘くはなくてじゃあ売れてる単行本はなにかというとそれは届く層が広くて届く深さが深いのだという話になるし、じゃあ哲学書はマンガより狭くて弱いのかと言われたらそりゃそうで哲学書はマンガより狭くて弱い、世間で見られている目線はともかく資本主義経済のなかでプラクティカルに見る限り人文科学なんて脆弱な界隈はとても生きていられるところじゃなくて赤字をどこでペイしながら死に際の巨人の延命措置をするかという世界になっていた。本を本だけで売ろうなんていう世界じゃあもうないし売れない本を買わない読者のために作り続けて結局赤字を抱えながら騙し騙しやっていくならもう本は自由主義市場で淘汰されるのが自由の末路でしょという結論にどうしたってなるし俺は夕闇国でほかに売るものも店に並べずにコラボコンビニでございなんて名乗りをあげてじゃあなんのコラボですかと問われれば今はシュルレアリスムキャンペーン中ですなんて言ってシモーヌ・ブノワを並べてでもそんなことではあなるほどとなる客が何人かはいて俺はこれでいいのか悪いのかわからなくなるし笑えることにブノワが何冊か売れたって俺の書店の赤字は変わらない。店を始める前に借りた金は二週目で残り少なくてまた潰れるのかなと思いながら本を刷っている。青思堂出版なんて言ったって実体は個人事業でいくらか外注はあるにしたってひとりでやってる翻訳ばっかりのしかも実質的に無許可の翻訳ばかりの本造りでこの世界でどうなっていくんだかもわからずにふたつの法人の帳簿をつけてこういう貸借対照ばっかりがうまいんだから高学歴はと俺よりはるかに高学歴の先輩に笑われていたのを思い出すしあの人も思えば自分の知性主義みたいなものからとうとう抜けられなくてでもそれをシニカルに笑いながらもエリート主義それ自体を小馬鹿にしながら自分よりもはるかに優れた知性を世に出してみせる歓びに浸るそういう自己矛盾を内心好いていたところだってあるしそもそもこんな車輪と轍が噛み合っていない業界で無理やり手車を押してたら矛盾を愛さないやつが続けられるのか? エディトリアルはどこにも行けないだと言って辞めたやつもいたしエディトリアルの力があれば就職先はあると言って去っていったやつもいたし俺はそういうやつらに勝るほど編集がうまいわけじゃたぶんなかったがそれでも編集の歓びというものがあるから編集者やってるんじゃないんですかという気持ちはどうしたってあってそういうやつらの歓びはどうだったんだろうと思わずにいられない。歓びがあるなら続けてしまうものじゃないのか。俺の本が九部俺の手で売れたという同人誌未満の売上を抱えてそんな歓びを抱えていられるんだから我ながら大した莫迦野郎だと思いはするが自分の中を見てみるなら参ったことにまだ本をつくることとそれを売ることに少なくとも手応えがあることに諦めきれない歓びがあってせめて一冊も売れなかったら畳むいい言い訳ができたんだけどなと嗤うしマジで一冊も売れなかったら俺は本当はどうするんだろうという未来の真相のところはわからなくてずるずるとまだ本を並べていてそれぞれに誰が書くかもわからない自分でデザインしたにしてはなかなかいい出来の読者カードを挟んで投げ瓶通信に返事が来ることをまだどこかで待機している。読者カードに誰かが書くことはないだろうしこういうものは一冊に一通来れば本当に大したもので良い本かどうかは読者カードが来るかどうかで決まると言っていいしそいつが単なる誤植やらの苦言叱責じゃないんなら本当にどんなに売上がぼろくそだって偉大な本と言っていいだろうしそれくらい読者は書かない。読者に書かせる本はすさまじい本だ。そういう読者この世界にいるか? それともどの本も実のところは鼻紙か鍋敷きか?
1,836闇円赤字。『孤立と表象』は一週目の初動で刷り分も回収できなくてまあそんなもんできるわけないとはなからわかってはいたにしたってそれでも珍しさもあったのか4件引き取り手があったのは望外で、そうは言っても向こうの店先でどれだけ売れたんだかはわからずに少なくとも俺の店の俺の店頭に並んでいる売り分のはけ方を見る限りじゃあやっぱりこの夕闇国でも本は売れない。それでもこの国は異様な買い物の熱気があってあきらかに読まないだろという客だっていくらかひととおり書店の中身を吟味して時と場合によっては二冊も三冊も買っていってそういう購買意欲それ自体は幻想みたいなものを抱かせないわけじゃない、この国では本が売れている。カール・ウィックマンなんて聞いたこともあるんだかないんだかわからない名前をしかしその現象学なんてポスト構造主義にボコボコにされた古臭い学問のしかしそれを批判的に回収して揚棄しようとした学者の本を揚棄なんてこれまたカビの生えた語彙も気に留めずにその理論的な骨組みだけを虚心坦懐ながめた客がひとつ読んでみようかと買っていくなんて理想的な本のそりゃあ売り方だけどどうしたって本が本として求められているのかそれとも鍋敷きやドアストッパーにでもなったのかはわからずに、少なくとも俺の国でもある一時期には出版華やかなりし頃があってけれどその頃に売れた本がすべて読者を持ったかというと疑わしい。本はともすればファッションになったしインテリアになったしそれを小脇に抱えながら上滑りした議論を交わすのはひとつのブームでもあったし結局のところ読者と読者でないものをすべて含んだものが出版の売上ということになるわけで着ない服や着けないアクセサリーを買う人間がいるように読まない本を買う人間がいたっておかしくはないし棚にずらりとならべて客を威圧するのに本ほど適したものはそりゃないわけだから経済的に豊かな時宜に適えば本は知じゃなしに権力として買われていくし買われていった先で仕事をする。優れた本はちゃんとした読者をもちろん持っていてそれについてごく狭い界隈でだって熱い内容的な議論が交わされてもいるし次巻を心待ちにする読者がいて、でもその読者の経済力と売れ方では狭い界隈の狭い需要を護り続けることができなくて読者は自分たちが本を読みたくても読みたい本を守ることができずだからって売れ筋の本が悪いわけじゃあもちろんないし特集やアイドルを劇薬にできる雑誌ならともかく単行本でウケ狙いで書いて売れるほど読者も世界も甘くはなくてじゃあ売れてる単行本はなにかというとそれは届く層が広くて届く深さが深いのだという話になるし、じゃあ哲学書はマンガより狭くて弱いのかと言われたらそりゃそうで哲学書はマンガより狭くて弱い、世間で見られている目線はともかく資本主義経済のなかでプラクティカルに見る限り人文科学なんて脆弱な界隈はとても生きていられるところじゃなくて赤字をどこでペイしながら死に際の巨人の延命措置をするかという世界になっていた。本を本だけで売ろうなんていう世界じゃあもうないし売れない本を買わない読者のために作り続けて結局赤字を抱えながら騙し騙しやっていくならもう本は自由主義市場で淘汰されるのが自由の末路でしょという結論にどうしたってなるし俺は夕闇国でほかに売るものも店に並べずにコラボコンビニでございなんて名乗りをあげてじゃあなんのコラボですかと問われれば今はシュルレアリスムキャンペーン中ですなんて言ってシモーヌ・ブノワを並べてでもそんなことではあなるほどとなる客が何人かはいて俺はこれでいいのか悪いのかわからなくなるし笑えることにブノワが何冊か売れたって俺の書店の赤字は変わらない。店を始める前に借りた金は二週目で残り少なくてまた潰れるのかなと思いながら本を刷っている。青思堂出版なんて言ったって実体は個人事業でいくらか外注はあるにしたってひとりでやってる翻訳ばっかりのしかも実質的に無許可の翻訳ばかりの本造りでこの世界でどうなっていくんだかもわからずにふたつの法人の帳簿をつけてこういう貸借対照ばっかりがうまいんだから高学歴はと俺よりはるかに高学歴の先輩に笑われていたのを思い出すしあの人も思えば自分の知性主義みたいなものからとうとう抜けられなくてでもそれをシニカルに笑いながらもエリート主義それ自体を小馬鹿にしながら自分よりもはるかに優れた知性を世に出してみせる歓びに浸るそういう自己矛盾を内心好いていたところだってあるしそもそもこんな車輪と轍が噛み合っていない業界で無理やり手車を押してたら矛盾を愛さないやつが続けられるのか? エディトリアルはどこにも行けないだと言って辞めたやつもいたしエディトリアルの力があれば就職先はあると言って去っていったやつもいたし俺はそういうやつらに勝るほど編集がうまいわけじゃたぶんなかったがそれでも編集の歓びというものがあるから編集者やってるんじゃないんですかという気持ちはどうしたってあってそういうやつらの歓びはどうだったんだろうと思わずにいられない。歓びがあるなら続けてしまうものじゃないのか。俺の本が九部俺の手で売れたという同人誌未満の売上を抱えてそんな歓びを抱えていられるんだから我ながら大した莫迦野郎だと思いはするが自分の中を見てみるなら参ったことにまだ本をつくることとそれを売ることに少なくとも手応えがあることに諦めきれない歓びがあってせめて一冊も売れなかったら畳むいい言い訳ができたんだけどなと嗤うしマジで一冊も売れなかったら俺は本当はどうするんだろうという未来の真相のところはわからなくてずるずるとまだ本を並べていてそれぞれに誰が書くかもわからない自分でデザインしたにしてはなかなかいい出来の読者カードを挟んで投げ瓶通信に返事が来ることをまだどこかで待機している。読者カードに誰かが書くことはないだろうしこういうものは一冊に一通来れば本当に大したもので良い本かどうかは読者カードが来るかどうかで決まると言っていいしそいつが単なる誤植やらの苦言叱責じゃないんなら本当にどんなに売上がぼろくそだって偉大な本と言っていいだろうしそれくらい読者は書かない。読者に書かせる本はすさまじい本だ。そういう読者この世界にいるか? それともどの本も実のところは鼻紙か鍋敷きか?
STORY
店舗の運営状況はなかなかの滑り出しといったところだただ、出店に際し支払った多額の闇円を回収するにはまだまだ足りなかった
「アイディアが必要だね、アイディアが……」
金魚の知恵を絞り、さなえは売り上げデータと見つめあっていた
その時、部下の金魚から意外な報告が入る!
「社長、オリハルコン入荷しました!」
――オリハルコン、入荷できたんだ――
◆訓練
気品の訓練をしました気品が16上昇した
気品の訓練をしました経験値が足りない
気品の訓練をしました経験値が足りない
気品の訓練をしました経験値が足りない
気品の訓練をしました経験値が足りない
◆送品
◆送金
◆破棄
◆購入
青思導書店は二日酔い覚ましのさわやかな紅茶を480闇円で購入した!
青思導書店はシモーヌ・ブノワ『幻視と痙攣』を864闇円で購入した!
青思導書店は情報誌『紅茶日報』を432闇円で購入した!
◆作製
大量消費社会24と二日酔い覚ましのさわやかな紅茶を素材にしてヴェロワ『エクリチュールとカラクテール』を作製した!
◆コンビニタイプ決定
コラボ に決定!!
◆アセンブル
スロット1に『月刊言語哲学』第37号を装備した
スロット2に虚無書籍を装備した
スロット3にシモーヌ・ブノワ『幻視と痙攣』を装備した
スロット4にカール・ウィックマン『孤立と表象』を装備した
スロット5にカール・ウィックマン『孤立と表象』を装備した
スロット6にカール・ウィックマン『孤立と表象』を装備した
スロット7にカール・ウィックマン『孤立と表象』を装備した
スロット8にヴェロワ『エクリチュールとカラクテール』を装備した
スロット9にシモーヌ・ブノワ『幻視と痙攣』を装備した
スロット10に情報誌『紅茶日報』を装備した
◆アイテム改名
虚無書籍をマーティン・ジョンソン『イデアル・ヘゲモニー』に改名した!
◆アイテムアイコン変更
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メッセージ
◆戦闘結果
売り上げ
闇円収入 1738
貢献補正 4.39%
行動順報酬!! 20%
合計闇円収入2176
商品販売数 3個
◆経験値が23増加しました……
◆体力が14増加しました……
◆素材が本部から支給されました……
貢献補正 4.39%
行動順報酬!! 20%
合計闇円収入2176
商品販売数 3個
◆経験値が23増加しました……
◆体力が14増加しました……
◆素材が本部から支給されました……
青思導書店はアルハラ28を入手した!
青思導書店はメモ帳28を入手した!
キャラデータ
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プロフィール
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Seiichiro Oze. 二十三歳で大学を出て、 人文・思想・哲学書をつくる、 小さくもない出版社に入った。 よくこの業界に入ってきたねえ。 このご時世に若い人が。 そう言われながら歓迎されて、 癖のある著者と編集者のなかで本をつくって、 二十六歳で会社が消えた。 本をつくる側から売る側に行き、 書店をやって、二年でつぶした。 借金が残ったあとの夕闇で、 夕闇国に迷い込む。 夕闇国、 そこはあらゆる世界の夕闇の狭間につながる昏い国。 小瀬青一郎、二十八歳。 出版界の夕闇から来た男。 彼は今も人文書を売っている。 彼の世界で本は売れない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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店舗データ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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