ENo.0134　事象の地平線

さて。
私がここにいる原因は……



およそあの子だろう。負の特異点。バタフライストーム。およそ人ならざる因果のねじれを産む身であるのに、人間だ。
いっそ人外の魔にでもなれれば楽なのだろうが、彼女の因果がそうはさせてすらくれないのだろうね。

さて、彼女は何を望んだのだろうね。それとも何も望んではいないのかも。
兎にも角にも、あの子に直接働きかける事は失敗するだろう。




女の指先に一本の針が現れた。
指先に止まる蝶のように佇む針を指先であやすように――
青い髪の少女、弓櫛 希に向かって投げつけた。
平時であるならば魔女の叡智によって飛ぶ針は少女の頭蓋を撃ち抜いて飛んで行っただろう。

しかし針は指から飛び立つ寸前に、まるで小石にでも転んだかのようにバランスを崩してくるくると宙に舞った。
そうして針は魔女の指先に、その先端を向けて落ちる。

……『致死』とかそういうものを投げたら何が起こるかわかったものではないね。
場所も最悪だ。せめてこの店が死ぬ程度ならまだいい。いやしかし、すこし迂闊にすぎたかな……。

血塗れの針を抜く。
遠くでは客の歓声と足音が聞こえ、近くには機械の音と店員ののどかなひとときが流れる。
魔女は微笑みを崩さぬまま、とりあえずは店員控室に引っ込んでいった。