ENo.0149　唐木高

ぺたぺたと音を立てて魚のような顔をした男があばら屋の中を歩く。
そこは断崖の上、一見人も訪れぬような場所であったが、どうにか道だけは整備されなんとか辿り着けるようにもなっていた。

男はちょうど腰の高さまである台を見つけ、立ち止まる。
「あそこで……あそこでピンゾロが出るのが悪いんだあバカヤロウ……俺があ、こんな事までする羽目になるたあな……」
呻く様に、口の端から言葉が漏れつつ、男は台を、粗末な箱のような物が置かれた角の前へと運ぶ。

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その日、男は実にツイていなかった。
道を歩けば犬に追い立てられ、側溝に落ちてあわや一大事ともなりかける。
そして、賭場に着いても例の通り、財布の中身は底を尽きかけていた。

しかし、そんな男の心中は、波風一つ立っていなかった。
勝負は常に時の運、負ける時は負けるし、勝つ時は勝てる。
そして最後には必然力が働き、男は勝つ。
男の持論は大体その通りであった。

ややもして、財布の中身を取り返すには手持ちも寒くなってきた頃。
男は好機と見て、勝負を仕掛けた。
全財産を突き出して、更には着衣までも賭けた戦い。
その結果は、今の身の上を持って知る所となる。

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家の奥を見ると、申し訳程度に張られた板の間の上には、所狭しと物が置いてある。
「……しかぁし、俺はツいてらぁ。ここで【ゆらぎのかへい】とやらを手に入れて、それを元手に一稼ぎすりゃあ良い。」
「だから今は……ちったあまともに働くしかねえな？」

そういうと男は箱の上にどっかりと座り込み、今まさに入ろうとする人の影を見つけ、大きく叫んだ。
「いらっしゃいませお客様ご来店ありがとうございます！！」


……男はまだ、気付いていない。
出店に、出遅れたということを。