ENo.0143　-KMG- Killer Mart Girls

（･･････やばい）

そのコンビニに一歩足を踏み入れた瞬間、背筋にぞわぞわと悪寒が走った。
黒を基調としたスタイリッシュな装いの店内。
壁際に並ぶショーケースの中に、数点の商品が鎮座しているのが見えた。

（･･･絶対にやばい）

精巧な模造品。ミリタリーショップによくあるヤツ。
頭の中で何度となく自分に言い聞かせる。
現実感のない、フワフワとした奇妙な浮遊感。
踵を返そうとしても、脚が言うことを聞かない。
曖昧な思考とは裏腹に、視界がやけにクリアで、
目の焦点が、ショーケースの１点から離れようとしない。

銃と聞いて、人はどんなものを真っ先に思い浮かべるか。
西部劇でよくある、２人の男が背中あわせに歩きだし、振り向きざまに撃ち合う。
そんなシーンに定番の、古めかしいリボルバー。
只野仁志が思い浮かべるのは、それだ。

その拳銃が今、視線の先に佇んでいる。
ごくり。と、喉が鳴った。
本物のわけがないと否定しながらも、
その拳銃から放たれる異様な"圧"に気おされていた。

『S.A.A.（シングル･アクション･アーミー）西部開拓時代に、アメリカ陸軍が使用した拳銃よ』

やおら、耳元で声がした。
ささやくような甘い声色。
振り向くと、密着するような近さで、１人の女が立っていた。

透きとおるようなプラチナの金髪に、雪のように白い肌。
アルビノとも違う、ルビーのような紅い瞳。
赤いストライプの入った黒いスーツの胸元には、店名の頭文字Ｋがあしらわれている。

『呼ばれているのでしょう、この子に。運命の出会いは、きまってそういう瞬間。
　さぁ、手に取って。触れてあげて。きっと肌になじむはずだから･･･』

ショーケースが開かれ、拳銃が解放された。
頭が真っ白になり、思考がまとまらない。
（ちがう、そんなつもりは･･･）
思考とは裏腹に、右手が拳銃へ誘われるように伸びた。

『西部の開拓民に平和をもたらした拳銃。通称、ピースメーカー』

指先が銃身に触れた瞬間、背筋に衝撃が走り、胸の奥で何かが跳ねた。
女はうっすらと蠱惑的な笑みを浮かべる。

『史上最も多くの人間に死を与えた拳銃でもあるわね』