ENo.0151　黄花

携帯が鳴る。
商品の搬入を一通り、終え、ようやく腰を落ち着けつつある所で、その通達はやって来た。
「ファンファ」
いつもの、おどけた、道化の口調ではなく。
落ち着いた人を刺すような低いトーン。黄花はその圧に怖気づくことはないが、これから先の話を予測してしまい、少し残念に思った。
「仕事だ。コンビニ経営は終わりだ。コンビニの在庫はこちらで処分する」
仕事。そう聞いて、彼女の脳裏に浮かんだのは、今まで生業としてきた本業の、血に染まった世界のこと。
ちらり、とまだ片付けが済んでいないダンボールを見る。
「詳しいことは、迎えを寄越してから説明する。それまで休養してくれ。急で申し訳ないが―・・・」
「紫電サん」
「ん？」
お決まりの文句を遮って黄花が言う。
「マシュマロ入りチョコチップアイス、売れまシたよ」
彼女の、その言葉に電話の相手はしばらく沈黙した。
小さく「はっ」という笑い声が聞こえたかと思うと
「結構」
その応答を最後に、通話は切れてしまった。
黄花は僅かな反応に満足し、閉店まではしばらく営業を続ける決意をした。