ENo.0055　カシ・サルミネン

「んをっ、マジかぁ！」

カレンダーをめくって声をあげる。

「もうじきバレンタインじゃねえか！」

もといた世界では、まだまだ先の話だろうけれど。
それでもなんとなく、顔が緩んでしまう。
だって今年は、身内以外からも久しぶりにチョコレートがもらえるのだから。

「んっふっふ、やっぱ結婚っていいよなあ…！」

ここにいない妻を思い浮かべれば、自然と顔が緩む。
忙しくしているだろうか。
ちゃんと眠れているだろうか。
風邪など引いていなけりゃいいが。

「やっぱ帰ったら温泉にでも行きてえよなあ…。
マッサージとか呼んでよう、そんで夜は美味ぇもんいっぱい食って、温泉街冷やかして……」

売り上げを計算する。
己の取り分も計算する。
道具を買って、
肥料を買って、
土を作って、
種を買って、
植えて、
薬を買って、
また肥料を買って、
育てて、
道具を買って、
収穫して、
箱を買って、
出荷して、
それが売れてようやく収入を得る農業と違って、コンビニでは収入が得られるサイクルが早い。

「……ん、よっし。今ンとここんなもんか。
もうちょい……いけるな！　頑張れる！
したらもっと稼げるな！」

そうしたら、クリスマスプレゼントのほかに温泉旅行も付けられそうだ。
もしかしたらもう少しばかり、何かをすることが出来るようにもなるかもしれない。
そう思えば、疲れなんて感じる間もなくなるのだ。

うおー、と意気込んだ声が明るい店内にこだました。