ENo.0002　ラシェル・マクレラン

ラシェルは元々特定の人間について布を操る仕事をそっと手助けする精霊のひとつ。
以前も、服を身に纏いたい人形のようの欲を叶えたり、人間の子供について編み物や裁縫を教えていた。
人形と人間を見届けたそれ以降は、特定の人間につく機会もなく、
布細工の手ほどきを求める声も聴こえず、
ただただ辺りを彷徨っていた。
布由来の精霊は、求められていない場所では力も衰える。
ラシェル当人は、それならば致し方ないと思っていた。
此方から他の人間に目を向けさせるには、彼女の力はあまり強くないゆえに。




……。


布細工を求める声が聴こえてきたのは、つい最近のことだ。
他の人間の数多の声に紛れて、少しずつ。
発している声も、ひとりではないと思われた。
特定はできない。
そっと近付く。
物の売買を行っているようだが、その内容も様々。
群がる人間の数も多い。
どんどん売って、と声を掛けられた気がした。
自分の創る布細工を求めてくれるならば。
目を向けてくれる誰かがいるならば。
そう思い、ラシェルは創った布のひとつを掲げた。
新しい土地での、売買のはじまり。