ENo.0031　紡糸神璃

「……よし、大体こんな感じかな」

ぱんぱんと軽く手をはたいて、軽く息をつく。
つい先ほどまでごちゃごちゃと段ボールが置かれていた店内は綺麗に片付けられ、きちんと店としての顔を見せていた。

シノリがこの国に迷い込んできたのは、つい先ほどのことである。

師匠に頼まれたおつかいの途中にふらりとこの夕闇国に迷い込んでしまい、とりあえず師匠に連絡をしたのだが――まさか、『そのまま修行してこい』と言い渡されるなんて。
呆然としている間にあれよあれよと話が進んでしまい、我に返ったときには既に自分の店舗を与えられていて断れなくなってしまい、大人しく店内の片付けをして開店準備を進めていたというわけだ。

「全く……お師匠様はいつだって急すぎるんだから……」

まだ装飾師としては見習いだし、編み上げることができる魔法もまだ弱いものばかり。
師匠のように使い魔もいない状態なのに、まさかいきなり修行として店を任せられることになるなんて。
生まれ育った世界にいた頃、少しバイトをしたことがあるから、まだマシかもしれないが。

「……まあ、諦めて頑張るしかないか」

困ったように笑って、一人で呟くと段ボールを全て裏へしまいこむ。
軽く身なりを整えて、在庫をチェックすると、シノリは表に出していた札をひっくり返して「OPEN」に切り替えた。

――さあ、修行開始だ。


「……、……。……別にメイン商品以外に置いてもいいよね……食べ物とかも……なんかそうしないと生き残れない気がする……」