ENo.0049　『無名』’’有想霧像’’

『裏通りの奥さん　小麦粉を一袋』
『外れの猟師さん　背負い袋を一つ、マッチを1ダース』
『副村長のお宅　花瓶を一つ、赤ワインを一樽、綿糸を五巻き』

台帳から顔を上げて大きく伸びをする。目を閉じればじんとその奥が疼く。
これで今日来てくれたお客様のぶんは全部書いたはずだ。
外を見ればもうすっかり暗くなっていて、なるほど目が疲れるわけだと一人納得する。

「それにしても日が短くなったわね。
秋になれば毎年こうのはずなのに、なんだか毎年驚いているような……」

夜を追いかけるように、山間の村には日を置かず寒さがやってくる。
伝書屋さんに町への鳩を頼もう。ランプの油、羊の毛糸、それに男の人は火酒だって飲む。冬には飛ぶように売れるそれらを頼んで、そして雪に閉ざされる冬の間をしのぐために倉庫いっぱい在庫を持たなくてはいけない。
それに村の中で頼むものだって、この時期にはたくさんあるのだ。木こりのおじさんには薪や炭を、それに牧場主さんにはクリスマスの七面鳥。
商人さんが来たらいろいろ見せてもらって、店長に贈るプレゼントも探さないといけない。
そこまで考えて娘はふうとため息をついた。

「どうしてこんなに忙しいときに、昼は短くなっちゃうのかしら」

窓の外に広がる夕暮れは何も答えない。
ただその風景を絵にして封じ込めたかのように、橙と藍のグラデーションはいつまでもその比率を変えなかった。