ENo.0094　エルザ・シュターデン

父親の夜逃げで少なくない借金を背負わされたあたしは、同じく父親が残した農場で額に汗して働いていた。
そんな日々の最中、私の勤勉さが報われたのかそれなりに大きな金を手にすることができた。途方もなく思えた借金の返済が現実的になるほどの、だ。

こうなると、あたしほどの無欲な人間でも欲が出てしまうというもので。

そう、夜逃げだ。

親子二代で夜逃げ。これには大爆笑。
血って争えないもんだな～とかちょっと感心しちゃうくらい。

でも、借金を返してもマイナスがゼロになるだけ。
手元にあるお金を持って逃げれば、少なくともマイナスにはならない。商売の種もある。

夕闇国への扉が開いたのも天の采配としか思えなかった。
さすがに別世界までは借金取りも、ついでに客達も追ってはこられまい。

一も二もなく、あたしは薄暗い扉に飛び込んだ。