ENo.0084　アード

ん。
ばりばりと頭を掻き毟る。
前に覗いた『コンビニ』とは、随分様相が違うような気がする。
前に訪れたコンビニってのは、なんというか。あらゆる全てが私の常識を超えてるって感じだった。
売っている売り物も、その包装も仕組みも何から何までが理解を超えていた、というか。
そういう場所で働けるかもしれない、なんてのは、私のところではそうない。

渡りに船。思い立ったが吉日。
飛びついてはみたものの。
誂えられていた【私の店』は、私の持つ知識の範疇に収まっていた。
酒蔵の中のような、そんな気さえする。少なくとも、異邦に来たのだ、という感触は今の処薄い。

‥あー、そういえばなんかそういうのを土台にしてモノ作ったり場所をこさえたりする術なんかもそういやあるって聞いたことあるな。
ひょっとするとここもそういうのかもしれない。
少なくとも此処はわたしが作った店ではない。
でも、私がもしも、私の出来る範囲で『コンビ二』をやるなら、と一度考えたあの感じにはかなり似ている。
‥しかしそれはそれで、私の色ばかりでなんだか少し残念な気もする。
やっぱり、『コンビニ』の専門家を首根っこ咬み引いてでも連れてくるんだったかな。
‥あーでもそれはそれであちらだけがあの時の店をなぞってこちらはそのままかな。
さっきちらっと覗きにいったら、手伝いにと連れ込んだところも彼の毛色が強く出てたし。
片やしっかりしたコンビニ。
片や酒蔵。
‥それはそれでよく考えたら、かなり癪だな？
まあ、ともあれ。
実際にこういう形の店を、あっちでやれるか、やるかどうかはともかくとしても。
折角の商機だ。やれるだけ、売れるだけ‥

‥‥あれ？此処の売り上げ、持って帰れるのか？
いや、売上金が目当てで来たわけじゃない。
銭に困っているんだったらそもそも出張って来ない。大人しく故郷の方で働いている。
でもだからといってただ働きしたいかっていうとちょっと‥

ピンハネしちゃダメかな？ﾀﾞﾒ？
ダメだよなあ。うーん。せめて此処のお金のいくつかくらい持って帰りたいけどなー。どうかなー。
まあ、こればかりに拘っていても仕方ない。
取り敢えずは、出来る事から。

手のひらを合わせて、其の儘組んで高く天に両腕を伸ばす。
身体を受け止めるには多少頼りない代わりに、沢山のものを掴み取れる指が、ぱきぱきと鳴る。
うーんまだ商品並べきるのも掃除も終わってないんだけどな。
困っちゃうな。慣れないというのもあるんだけど。
接客もこのくらい前肢‥じゃない、両手と指先使えないと話にならないしなあ。

ふふ。
まったく、困っちゃうなあ。