ENo.0049　『無名』’’有想霧像’’

「う～～～ん」

　ベッドの上で身体を起こして大きく伸びをする。まだ外は薄暗いけれど、することはたくさんあるんだからこれくらいがちょうど良い。
　まず奥さんのご飯の用意を手伝わないといけないし、その最中にも朝の早い農場主さんの家からお客さんが来るかもしれない。
　ご飯を食べたらお店を開けて、お客さんや商人さんを待たないと。
　そう思いながらベッドを降りたところで、薄い木のドアを軽く叩く音。

「ちょっといいかい」
「どうしました、店長？」

　こんな時間になんて珍しい。何事かと目をぱちくりさせていると、すぐに済むからこのままで、と声は続けた。

「峠の方で大雪が降ったそうでね。山を越えるはずだった一団が足止めを食ってしまったそうなんだ。
　総出で雪かきはするそうだが……今日からしばらく忙しくなると思う。それだけ知らせに来たんだ」
「わかりました。……もしかして、昨日のお客さん達はその人達だったんですか？」
「そうだ。一日で済むと思っていたんだが……とにかく、もうこうなっては村全体のお客人だ。失礼のないように頼むよ」
「はい、店長！」