ENo.0086　『風食む白き牙』の魔王

パン屋の青年
「メリークリスマス！！」


茶摘みの女性
「メリークリスマス！！」


『風食む白き牙』の魔王
「…very苦しみます？」


青年
「魔王さま…」


女性
「あっ、そうでした…　魔王さま、まだ独り身ですものね。
　すみません、魔王さまのお気持ちも考えず…」


魔王
「何か憐憫の目で見られた気がする。」


魔王
「い、いや…　その栗と鱒だか熊と栗鼠だかというのが本当に判らんのだ。
　何か、喜ばしい行事か祭り事だというのは雰囲気から掴めるのだが。」


女性
「あっ、そうだったんですか…」


青年
「てっきりぼっちを気に病まれてたとばかり。」


魔王
「ちょっと待てお前たち。」


魔王
「ま、まぁ…　私の故郷は人里から離れていて、街の人間とはほとんど交流がなかったからな。
　こういった都会の行事にはあまり詳しくないんだ。すまんな、世間に疎くて。」


魔王
「で、いったいどういう祭り事なんだ？」


青年
「本来は、とある聖人さまの誕生日をお祝いするお祭りなんです。」


女性
「聖人さまのもたらす福音に感謝して祈りを捧げたり、
　家族や隣人の、変わらぬ愛のお礼にカードやプレゼントを贈りあったりするんですよ。」


魔王
「…ふむ。家族への愛を感謝する日…か。」


魔王
「………。（そういえば、アイツにはいつも身の回りの世話をして貰っていたが、はっきりと感謝を伝えたことはなかったな…）


魔王
「………。（いつか伝えようと思ってはいたのだが、ついぞ言えず仕舞いだった。）」


魔王
「………。（もしアイツとこの日を過ごすことがあったなら、そのときは…）」


魔王
「………。（いや、夢のまた夢…か。）」


青年
「どうしたんですか？　魔王さま。」


魔王
「ああ、いや。ちょっと昔の事を、な。」


魔王
「それで、お前たちはどうするんだ？
　今日は休業して、2人でそのクリスマスとやらを祝うのか？」


青年
「いいえ、僕たちは普段と変わらずお店を開けますよ。」


女性
「書き入れ時ですからね。販売用のクリスマスケーキも仕入れ済みですよ！」


2人
「「さぁ、今日も頑張りましょう。魔王さま！」」


魔王
「………。（もしかしてこの2人…『ぶらっく経営者』とかいうやつなのでは…？」