ENo.0031　紡糸神璃

少しずつ、本当に少しずつだけれど、服以外のものが減ってきた展示用のテーブルの上を見て、シノリは満足そうに頷いた。
この国へ、そしてこの世界にやってきてから、今日で確か――5週目くらいだったか。
不安はまだ残っているし、トラブルなんかが起きたときは慌ててしまうけれど、それでもだんだんと上手くやっていけるようになっているのは嬉しいところだ。
何より、少しずつでも自分で作った服を店頭に並べ、それを手にとってくれる人がいるというものは満たされるような気分になり、達成感に包まれる。
ここに来る前はお師匠様の店で主に店番をしていたから、特に。

「……よし、これで完成」

ミシンを止め、縫い終わった服を広げてみる。
今回作ったのはファーコートだ、悪夢を見なくなるという魔法も編み込んでみたが、はたして手に取ってくれる人はいるだろうか。

「ちょっとでもいいから、売れてくれますように……っと」

また一つ、商品を入れ替えて新たに作ったファーコートを並べる。
前まで並べていた商品を持って奥に戻ると、シノリは片隅に置いていた段ボールの中へそれをしまった。

「……さあて、今日も頑張ろう！」

今日もきっと忙しくなる。
お客さんが入ってくるときは次々に入ってくるし、トラブルも発生するときは次々に発生するから。
気合いを入れるように頬を軽く叩き、シノリはいつものように札をひっくり返した。