ENo.0010　長谷川

（名状し難い筆跡で記録がある）

『旦那様、とてもマフラーがお似合いでした。
　友人には緑緑と推しすぎだ、ファッションを考えろと言われましたが。
　赤でも入れたらいいのかしら、といえば“時期外れ”とも言われてしまいまして。何と申しますか、服飾は難しいのですね。

　そういえば旦那様の所にこっそり行こうと思いましたら、とっくに仕舞ってました。
　売上が良いのでしたらいいのですが……なんだか、とても不安なお顔をしている気がします。
　こんな時こそ、あたくしがしっかりしないといけませんね！

　というわけで、今度は旦那様の纏うお色に近い黒い膝掛けでも編むことにしました。
　あんまり色を増やしすぎても、ちょっと気持ち悪いでしょうから。

　あまり自分を顧みないでいると旦那様がご心配なされるので、とっておきの炭を用意しました。
　これなら冷めることもない！　と思っていたら、今度はあたくしが蒸発しかけました。
　どじが過ぎると昔から言われていましたのに、なんてことかしら。

　何事も失敗は成功の母というので、いっそのこと自分で作るのもいいかもしれませんね。
　……正直、なぜだか頂いた肝臓やらからでは作れそうにありませんが』

（今日の筆跡は力強い。自らを鼓舞するかのように。
　それでも読みづらいのは確かである）

『金魚坂様のご意思と、来る何らかの波。
　どちらも力強いものです。あたくしもあのように、強くなりたく思っています』