ENo.0084　アード

浮かれていたかな？
なんだかんだで浮かれていたんだろうなあ。
確かに、葡萄酒の白いのを頼んだ筈だったんだが。
ちょっと違和感があって、開けてみたら酒の香がしなくて。

‥案の定酒ではなかった。いや、まあ、いいんだけど。
これはこれでもとよりあっちで扱ってる品だ。
娘の弁に任せて、剥き実をそのままゆるく一度潰し。
種を覗いて、もう一度絞りなおして果汁だけを詰めた。
私としては若干甘すぎる気はしたが、わりと受けは良かった一瓶だ。

まあそれはそれでもいいんだが。
赤は酒。片や白は甘い果汁になってしまった。
折角だから紅白は酒でそろえてこの店の『顔』にしたかったが‥
うーん。とはいえ。ない袖はふれない。
ついでに今からこれを酒にするなんて芸当はできない。
‥‥、‥必要に迫られなければ余計な真似するなって釘も刺されてるしなあ。
うん。できない。うん。
酒以外のものでなおかつ、酒と似たような管理で済むものが増えるのもまあ悪くはないかな。
折角だからこれも味わってもらうことにしよう。
他所の出している飲料類を並べて売れ行きを比べるのも面白いかもしれないなあ。
如何せん此処の店はどこもそこもなんか矢鱈にレベルが高い。
ぽっきり心を折られる気はするが。
それはそれで貴重な体験だし。

それにしても此処は本当に色々な形の『コンビニ』があるらしい。
‥‥。
‥というかあの日、アレと一緒に見たコンビニの形とやらが本当に一般的なものだったのかどうかを疑う。
あまりにも此処は自由だ。
酒と飲みものを並べて満足している私が言ってもいまひとつ説得力がないが。
前に渡る機会のあった異世界よりは、やっぱりヒトは多いかな。
まあヒトの世界の為の店だものな。多くて当然という気はする。
かといって竜種なんかがいない訳じゃない。
私やくれいなんかだけが例外だったらどうしようかと思ったがとんだ杞憂だったようだ。
寧ろそれをあまり気にするようにも見えない環境だったのはわりと助かる。
好きに商売の方に注力できる。
‥だからといって酔っ払いの中年を店の前に置かれるのは困るな。
今度来たときにはちゃんとあの娘捕まえておかなきゃいけないな。
介抱する必要のない酔っ払いは、路傍の石と仲良く転がしておけばいいのだ。
別に暴れられてもどうということはないが、他の客の妨げになるのは少し困る。
ついでに、今の姿だと引き摺ってどこかに連れていったり、その要があって介抱するのも難儀するし。

はー。思い返したらなんかちょっと疲れがぶりかえして来た気がする。
そういえば『あの竜』は紅茶の香を纏っていたな。
私の店が近いからかそういう売り方をしているというのもなんか噂で聞いた。
丁度いい。
店を開けて笑顔を貼りつけなきゃいけなくなる前に、折角だから一杯ひっかけにいこうかな。