ENo.0031　紡糸神璃

この夕闇国へやってきて、今日で6週目。
服を作り、商品として店頭に並べる作業にも慣れてきたけれど、まだまだこの国は驚くことがたくさんある。
それは種族だったり、一日の客の量だったり、本部から送られてくる素材だったりと様々だが、シノリが一番驚くのはマーケットだ。
新商品のアイデアや、他の人はどんなものを作っているのかが気になってよく顔を出すのだが、結構な確率で目を丸くするものが並んでいる――まだここに来て日が浅いとき、トラックが並んでいたのを見たときにはすごく驚いた。
あれは今でもシノリの心に強く残っている。

「……やっぱり驚くものを作ったほうが売れたりするのかな……いやでも逆に手にとってもらえなかったりするのはなぁ……」

独り言を呟いて、シノリは苦笑いを浮かべる。
お師匠様は売れるものを作るのも手だといっていたが、それはシノリにはまだ難しそうだ。
そもそも、この国ではどんなファッションが流行っているのかとか、そういったこともよくわからない。
一人で息をついて、店内の掃き掃除をする手を止めたところで――ふと。
忙しさに流されて、すっかり忘れていた疑問がシノリの中で湧き上がった。

「……そういえば……」

迷子になったついでに修行をしてこいって、お師匠様に背中を蹴られてきたわけだけど。
――この修行が終わるときって、いつなんだろう？