ENo.0031　紡糸神璃

この夕闇国にやってきて、7週目。
小さく真っ白い息を吐いて、シノリはひやりとした空気の中で空を仰いだ。
謎のゴリラウェーブとやらで滅茶苦茶になってしまった店内もすっかり片付き、またいつもの姿を取り戻している。
あのときはどうなることかと思ったが、なんとか店内も商品も元通りにすることができた。
正直、あのゴリラウェーブが衝撃的すぎて、今日何が起きても驚かずに受け止めることができる自信のような何かもある。

「……何が起きても動じない度胸を身につけるっていう点では、最適の修行場所かもしれないよなぁ……」

一人でそんなことを呟いて、再び真っ白い息を吐く。
どこまで考えて、どこまで先を見通しているのかわからない、あの装飾師のチェシャ猫じみたにたにたした笑顔を思い浮かべ、ゆるりと首を左右に振る。
あの人もあの人で、この国ほどではないが予想できないし変わっている人だ――あの人が何を考えて自分をここに放り込んだかなんて、考えるだけ無駄だ。

それよりも、目の前のことに全力で当たることのほうが最優先だ。

「……今日は前みたいなことが起きませんよーに」

軽く柏手を打って祈ってから、今日もプレートをひっくり返した。