ENo.0076　アプリコーゼ

――――天使の話をいたしましょう。
様々な世界があり、様々な天使がおられる事でしょうけれど
今は…わたくしたちのお話を。


天使とは、無垢なる魂が天へ昇ったもの。
天へと至りし魂を他の天使が見つけ、名を付ける事で
天使へと為るのです。
天使となったものは名を付けた天使の下につき、見習いとして天使とは何であるかを学ぶのです。
…そう、今のあなた方の事ですね。
そして試験を経て、わたくしたちと同じ正天使となる…。

無垢なる魂は、元が何でもかまいません。
花であったものもいるでしょう。
動物であったものもいるでしょう。
鉱石であったものもいるかもしれません。
そして、人であったものもいるでしょう。
けれど、天使と為ればすべて同じ。

あなた方は名を頂き、天使となった時に、元の記憶をなくしているはずです。
元が何であったをぼんやりと覚えているものもいるかもしれませんが、それも天使として過ごすうちに徐々に消えて行くことでしょう。

…極稀に、記憶を携えたまま天使となるものもいるようですが…
天使として過ごすうちに徐々に消えて行くのは同じですから、結果は同じ事ですね。


わたくしたち天使は見守るもの。
正天使になれば人や国の守護天使となる資格が与えられます。
とはいえ、けして大したことはできないのです。
運命を変えたりだとか。
命を助けたりだとか。
そういう大それたことは、残念ですがわたくしたちにはできません。
見守ること。安らぎを与えること。
そして無垢なる魂を迎えること。
それがわたくちたちの役目なのですから―――……。









……夢を見た。
この体でも、夢を見る事があるんだな。
天使としての、はじめの頃の記憶だ。
”あの御方”に出会った頃の。

…この間いきなり来た”あの御方”の姿を見たからだろう、こんな夢を見るのは。
まだ、俺も人間らしさが抜けていないという事なのだろうか。
だとしたら―――僥倖だ。



俺は、元人間だ。はっきりと、覚えている。
俺がその極稀なケースなのだと”あの御方”は気付いちゃいないだろう。

だからこそ、急がなくては。
誰かに気付かれて、邪魔される前に。
俺は急いで試験に合格し、正天使にならなくちゃいけない。
ぐずぐずしていてはこの記憶も消えてしまう。
この記憶を携えている間に、早く正天使にならなくちゃいけない。

―――アイツの守護天使になる為に。