ENo.0010　長谷川

（名状し難い筆跡で記録がある）

『年を越したそうです。
　年の瀬はお客様でうんと混んでおりますので、今日も今日で大変なのには変わりません。
　そうなると、薬や湿布を多用している旦那様へのご負担も気になります。

　あたくしにはかぶれる皮膚もやられる内蔵もないですが、冷えると旦那様によくありませんので。
　体の中にかいろを仕込むことにしました。
　これで常に暖かく過ごせるかと思いきや、外に出た途端寒さに負けてカチコチです。

　湯たんぽも試しましたが、結果としては同じでした。
　あたくしが寒いのではなく、隣りにいるひとを暖めたいだけですのにね。
　天のお慈悲はここには届かないようです。

　それから鷹だと思っていたら、鳶だと訂正されました。
　羽根のついたもの、という認識しかなかったので、すこし恥ずかしいです。
　学がないのは昔からですが、いい加減一般常識ぐらいは身につけておかないと旦那様にも恥をかかせますね。

　それはともかく、帰ったらお風呂をあつあつにしておきましょう』

（入浴剤、という単語らしきメモが日記の隅にある）

『ところで金魚坂様はどういう方針なのかしら？
　ちらりと接客機械の話を耳にしましたが、結構不安です。
　あまりそしるつもりもございませんが、何より呪いのこともあります』