ENo.0086　『風食む白き牙』の魔王

パン屋の青年
「あけましておめでとうございます！！」


茶摘みの女性
「あけましておめでとうございます！！」


『風食む白き牙』の魔王
「年始の挨拶というやつだな。ハッピーニューイヤー。皆、今年もよろしく。」


女性
「！！　魔王さま？！」


青年
「魔王さま、お正月はご存知だったんですね…」


魔王
「ちょっと待て、私を何だと思っているんだ。流石にそこまで世間知らずではないぞ。」


女性
「でもクリスマスはご存知なかったですから…」


青年
「てっきり世の中の祝祭にはご興味がないのかと。」


魔王
「おいおい、私は別に世捨て人と言う訳ではないぞ？　むしろ祭りは好きな方だ。
　祭りとなれば美味い飯が食えて美味い酒が呑める。祭りはいいものだ。」


青年
「駄目な人だ……」


女性
「慶事は喜びごとを祝う場であって、飲食を主とする場ではありませんよ。魔王さま。」


魔王
「どうしてお前らはそうすぐ掌を返すんだ。」


女性
「ところで魔王さま。私達、ずっと待っているのですが…」


魔王
「いきなり何だ？」


青年
「お年玉を期待してるんです！！」


魔王
「話の流れがちょっとよくわからない。」


青年
「誤魔化さないでください。お正月といえばお年玉でしょう！」


魔王
「いやいや、お年玉というのは確か親類縁者に配るものであって、他人に配るものではなかったと思うぞ？」


女性
「懸命に働く従業員は最早家族といえます。心ばかりの寸志があってもいいのではありませんか？
それとも、魔王さまにとって私達は唯の駒でしかないのでしょうか…」


魔王
「あー！　ほらほら、そろそろ開店時刻だぞ！　
　急いで準備をせねば間に合わん。初売りだ、気合を入れていくぞ！！」


青年
「遠い目でそんなことを言われても説得力がありませんよ、魔王さま！！」


魔王
「ラッシャッセー！！（ガラガラと店のシャッターを開けて客を呼び込む）」