ENo.0100　B・ミナスジェライス兄妹

業務日誌
５日目
記入：臨時店長リオ・バーントイエロー・ミナスジェライス

外が騒がしい。ゴリラが来ただのゴリラが見えるだのゴリラしかいないだの、誰もが口々にゴリラ・ゴリラについて話している。無理もない。視線を外に向ければおれにもゴリラしか見えない。
夕闇国の新聞やテレビ番組もこの現象を「ゴリラウェーブ襲来」などと称して取り上げている。妹達は妙にはしゃいでいて、オフの時に店の外に出ては、こちらへ近づきつつあるゴリラの大群を見てきゃらきゃらと笑っていた。事の重大さがあまり理解できていないらしい。明日にはあいつらここに来るんだぞ。
ひしめくゴリラの群れはあちらこちらから夕闇国へ侵入を開始していて、驚くべきことに彼らは夕闇国に大量出店したコンビニを目指しているようだった。明日にはまとめて「来店」するんだろう。うちのバックヤードに設置したコンピューターの来店予測ＡＩも、画面いっぱいにゴリラを表示し続けていた。
今日までもおかしな客は大勢やって来たが、今度はゴリラだ。それも数えるのが嫌になるぐらい大量のゴリラだ。意味が分からない。そもそもゴリラは動物じゃないのか。買い物なんぞできるのか。あいつらは当然おれ達の店にも来るはずだが、ゴリラに対しておれ達は一体どんな接客をすればいいんだろう。共通語でコミュニケーションが取れるのか？　それとも金魚坂グループがゴリラ語の接客マニュアルでも配布してくれるのか？
……もうやめよう。ゴリラと書きすぎてゴリラという文字列がゲシュタルト崩壊してきた（サイボーグでもゲシュタルト崩壊は起こすんだな、覚えておこう）。今日はとにかく体を休めて、明日に備えるべきだ。ただでさえ今日は途中で閉店する羽目になってしまったのだし。

これは覚え書き、例の「亡霊」について。
あいつは今も、不定期に監視カメラに姿を見せている。魔除けの札や霊障に効く術具なども客の目につかない場所に設置してみたのだが、効果は見られない。一応、他所で効果を検証してから置いたものだったのだが、何故か効かない。どうしてだろう。
今の所実害は無いし、客から苦情らしい苦情も現時点では来ていない。店の商品がなくなったりもしていない。ヴェラやアニカは「放っておいてあげた方がいいのではないか」と言っているが、おれはどうにも気になってしまう。これからも無害とは限らないのだし、何よりあいつの目的が分からない。
あの「亡霊」は一体どうして、この店をうろついているのだろう。
そもそも、あいつが憑いているのは「シトリン・マーケット」か、それとも、おれ達三人なのか。
それを見極めるには、さて、どうしたらいいだろうか。