ENo.0142　縁継庵

　
　御主人の命が突拍子もないのは慣れてるとして、
知らない国の知らない店で店員をやらされたことは多分まだなかったな。

　ひととおり駆けずり回って情報も仕入れて、
分かったのはどうやらこの国から何か持ち帰るのは難しそうだってことくらいか。
　ここで使われてる“闇円”ってェのはどうやらここを離れると消えちまうらしい。
　便利なもんだな！

　んでもって“ゆらぎの貨幣”とかいうのがまた別物で、
こっちは外に持ち出されると向こうの国で通じる通貨に姿を変えるんだと。
　なんじゃそら。　そっちの方がもっと信じらんねえ。
　詐欺師の手口としても三流に過ぎる。

　そういうことなんで目ぼしい収穫は望めないんじゃないッスかねーって報告したら、
その“ゆらぎの貨幣”ってやつを探して来いと。
　なるべく姿を変える前の形でと。



　だから俺は今、この店のレジに立って客を待ち構えてる。
　先日はゴリラの群れがご来店なさったらしいんだけど大丈夫か？
　マジで言ってんのか？

　……つっても命の取り合いなんざはあんまなさそうなんだよな。
　この国の奴らはだいたいみんな売り気と買い気に満ちてやがる。
　殺しちまったら商売できねえもんな。

　随分とまァ平和な国だ。