ENo.0031　紡糸神璃

――シノリが夕闇国へやってきて、9週目の朝。
いつものように開店準備を進めるシノリの表情は、いつもと違って浮かない顔だった。
それもそのはず、以前ふらりと姿を現した師匠から告げられた修行の終わりについての話は、シノリが修行に送り出されたときと同じようにあまりに唐突すぎるものだった。


『10週。お前さんがこの国で店を開いて、10週の間、一人で切り盛りできたら修行を終わりにする。もし10週経つ前に逃げ出したら違う世界に蹴り出して、修行のやり直しをさせるから覚悟しておくんだね？』


10週――今日が9週目だから、あと1週しかない。
あと1週頑張ったら、シノリはこの国を離れなくてはならない。
疑問に思いつつも過ごしてきた修行の日々の終わりは、思ったよりも短くて――言葉を失うほどに唐突すぎるものだった。

「……お師匠様はいつもそうなんだから……」

溜息混じりに、もう既に元の世界へ帰っていってしまった相手へ文句を零す。
この国へ来て、店を開いて、そうすることで知り合うことができた相手はいる。
まだもう少しだけあの二人と共に過ごしていたい気持ちはあるけれど、どうやら現実はそうはいかないらしい。
深い溜息がシノリの口から出る。

「……まあ、仕方ないと思って頑張るしかないかぁ……」

ここまで頑張ってきたんだ、逃げ出して修行を延長する選択肢はシノリの中にはない。
となれば、もう大人しく現実を受け入れるしかないわけで。
開店時間が刻々と迫る中、シノリの胸の中は微かな寂しさで充ち満ちていた。