第9週目 『無名』’’有想霧像’’の一週間
◆日記
この世界は私によく似ている。
空を覆い尽くす夕闇を目にした時、まず感じたのはそのことだった。
看板のネオン、立ち並ぶコンビニから漏れる電灯の明かり、そして清潔で明るいたくさんのお店。それがなければきっと目の前の人の顔さえよくわからない場所。
たとえ分かったとして、次の瞬間にはそれがまったく違っているかもしれない揺らぎ続ける世界。
それは自分でもびっくりするくらい『有想霧像』に近かった。
迎え入れたものすべての名前を奪い、有象無象となったそれらを従える終わらない黄昏時に。
始まりの話はずっと単純で、生きたいかと聞かれたから生きたいと答えた。
きっと同じ状況に置かれたならみんなそうするだろうと、私は今でも固く信じている。それくらい差し迫った状況の話だ。
その時はあの人も私も、『私』がこんなものになるなんて思ってもいなかった。……というのは、きっと全部正しいわけではない。
あの人は私が何になるか知っていた。でも『私』はその予想から外れてしまった。予想を超えたでも予想を下回ったでもなく、こう言うのが一番しっくり来る。
私のようなものが生まれるなんて、誰も予想してはいなかったのだ。
『あんた、名前は言えますか? 今までの名じゃありませんよ』
目を覚ました私にあの人が一番最初に聞いたのはそのことで、『私』はそれを答えられなかった。
一度目は「まだ」かと少し時間を置かれた。二度目には冗談だろうと思われた。三度目でようやく、あの人はそれが嘘でも冗談でもないことに気付いた。
あの時の異様なものを見る目。
バケモノと自分を呼び表したあの人が見せた目。
その存在からして有り得るはずのない、生まれてくるはずのないものを見る目。
今でもなお、それは私の脳裏に焼き付いている。
俺達は名によって立つのに、とあの人は言った。
信じられないのを隠そうともしないその声は酷く狼狽えていたけれど、『私』はそれがどうしてだかわからなかった。
ただもうあの人以外に頼る相手なんていないことは一目瞭然で、その相手が動揺しているのを目の当たりにするのはそれまでのどんな時より心細かったのを覚えている。
大嵐が来て揺れる家の中にずっといた時も、子供の頃にとんでもないミスをして怒られるのが怖くて一人で倉庫に隠れていた時も、思い出せたどんな時だってあんなに不安じゃなかった。
ただ私の覚えている中なら、それよりずっと恐ろしい思いを一度したことがある。『私』には思い出せなかっただけで、思い出せたとして結局また忘れてしまっていただろうけれど。
悲鳴と爆音を遠くに聞きながら、瓦礫の下でこのまま死んでしまうのかと思ったあの時は。
立ったままこちらを見下ろす影のようなあの人の姿が、翼のない天使に見えたようなあの時は。
きっとほんとうはどこにも、私に寄る辺はなかった。
あの人は私がどんなものになったかについていろいろな話をしてくれたけれど、私の頭で理解できたことはそう多くなかった。それにその大半は、きっと『私』には――名もない登場人物にはぜんぜん必要のない知識だったんだろう。
人々の口から口へ伝えられ、紙から紙に刷られ書き写される物語。私達はその姿や力を、それぞれの才能に応じて借りるものになった。
そしてその中心には『世界』がある。持っている才能が最大限に発揮される自分の庭。
私達は誰だって自分の庭の名前を知っている。その名前こそが庭の形や風景や、そこを歩く時のルールを教える。
私のあまりよくない頭であの人の話を要約すれば、そういうことになる。
だから自分の名前のわからないものなんているわけがない。自分の庭のことを何も説明できないわけがない。
あの人はそう言った。そして聞いた。
『アンタは一体、何なんだ』
村に絵本なんてそれほど多くなくて、いつも他の子供と貸し借りして――もっと率直に言うなら、奪い合いながら読んでいた。
お店の手伝いが終わったらすぐ教会に駆け込んで、それでもボロボロの絵本が残っていることは少なくて。だからこそそれを大事に読んでいたのかもしれない。
お姫様のようにすてきな人と結婚したいとかきれいになりたいとかそうしたことを思って、その結末にだいたいは納得するような平々凡々な子供だった。
ここで少しでも違うことに思いを馳せるような子供だったら、もしかすれば今の私はいないのかもしれない。
思えばどんな物語にだって、名前をもらえない人がいる。時々人でもないけれど。おじいさん、おばあさん、お姫様、王子様、オオカミさん。それほどの呼び名さえもらえない、けれど絶対に必要な人たち。
例えば悪を倒す騎士の話があったなら、最初に悪さをされているのはだいたいそういう人たちだ。その人たちの元に騎士が駆けつけて、腕を見込まれて悪役を倒しに行く。
騎士が帰ってくれば大喜びして、めでたしめでたしと話は終わる。もし話が続いたとしてそこに描かれるのは騎士の話で、助けてもらった人の話じゃない。
騎士が会った人がどんなに以前会った人に似ていたって、それは同じ人じゃない。同じ人であることを読み手に考えられもしない。もちろん書き手だって、同じ人を登場させるなんて何かない限り考えない。
私が借りた姿はそういうものだった。
私にあったのはどこまでも平凡であることの才能で、平凡な人間には何もいらなかった。
普通の人は自分が何なのかなんて考えない。普通の人はただ繰り返すみたいに平凡な日常を送る。普通の人は生死とか存在とかじゃなくて、明日の夕飯なんかで悩む。
だからもう普通じゃない私は、そこにはいらなかった。
普通の『私』はぐるぐる回っている。かごの中で回し車を回すシマネズミにも似て、自分で作り上げた普通の日常をぐるぐると回り続けている。
でも『私』が私でもある限り、それは普通では有り得ない。普通の人間はゆらぎの世界に迷い込んだりしないし、あんな不思議でまとまりのないお客さんたち相手の接客もしないし、そのお客さんと同じくらいまとまりのない商品を置いて商売もしない。
だから私は『私』の目を覆い隠していた。おかしなことなんて何も映らないように。
自分が普通じゃないことに気付いてしまった人は、もう二度と普通には戻れないから。
けれど『私』はまた気付いてしまった。だからお店もおしまいだ。めでたしめでたしの終わりは今日も来ない。
だけどそうでなくとも、私にはそのおしまいをまだ延ばすことができる。
「……店長……店長?」
『私』には私の声が聞こえているはずだ。その耳に届く音が私と同じ声をしていなくとも、それは紛れもなく私の声だ。
数多の世界を渡りながらずっとこうしてきたし、これからもこうしていくだろう。『私』が普通であり続けるために。私がこの世にあり続けるために。
私はあの時、どんなものになってでも生きたいと心から願ったのだから。
空を覆い尽くす夕闇を目にした時、まず感じたのはそのことだった。
看板のネオン、立ち並ぶコンビニから漏れる電灯の明かり、そして清潔で明るいたくさんのお店。それがなければきっと目の前の人の顔さえよくわからない場所。
たとえ分かったとして、次の瞬間にはそれがまったく違っているかもしれない揺らぎ続ける世界。
それは自分でもびっくりするくらい『有想霧像』に近かった。
迎え入れたものすべての名前を奪い、有象無象となったそれらを従える終わらない黄昏時に。
始まりの話はずっと単純で、生きたいかと聞かれたから生きたいと答えた。
きっと同じ状況に置かれたならみんなそうするだろうと、私は今でも固く信じている。それくらい差し迫った状況の話だ。
その時はあの人も私も、『私』がこんなものになるなんて思ってもいなかった。……というのは、きっと全部正しいわけではない。
あの人は私が何になるか知っていた。でも『私』はその予想から外れてしまった。予想を超えたでも予想を下回ったでもなく、こう言うのが一番しっくり来る。
私のようなものが生まれるなんて、誰も予想してはいなかったのだ。
『あんた、名前は言えますか? 今までの名じゃありませんよ』
目を覚ました私にあの人が一番最初に聞いたのはそのことで、『私』はそれを答えられなかった。
一度目は「まだ」かと少し時間を置かれた。二度目には冗談だろうと思われた。三度目でようやく、あの人はそれが嘘でも冗談でもないことに気付いた。
あの時の異様なものを見る目。
バケモノと自分を呼び表したあの人が見せた目。
その存在からして有り得るはずのない、生まれてくるはずのないものを見る目。
今でもなお、それは私の脳裏に焼き付いている。
俺達は名によって立つのに、とあの人は言った。
信じられないのを隠そうともしないその声は酷く狼狽えていたけれど、『私』はそれがどうしてだかわからなかった。
ただもうあの人以外に頼る相手なんていないことは一目瞭然で、その相手が動揺しているのを目の当たりにするのはそれまでのどんな時より心細かったのを覚えている。
大嵐が来て揺れる家の中にずっといた時も、子供の頃にとんでもないミスをして怒られるのが怖くて一人で倉庫に隠れていた時も、思い出せたどんな時だってあんなに不安じゃなかった。
ただ私の覚えている中なら、それよりずっと恐ろしい思いを一度したことがある。『私』には思い出せなかっただけで、思い出せたとして結局また忘れてしまっていただろうけれど。
悲鳴と爆音を遠くに聞きながら、瓦礫の下でこのまま死んでしまうのかと思ったあの時は。
立ったままこちらを見下ろす影のようなあの人の姿が、翼のない天使に見えたようなあの時は。
きっとほんとうはどこにも、私に寄る辺はなかった。
あの人は私がどんなものになったかについていろいろな話をしてくれたけれど、私の頭で理解できたことはそう多くなかった。それにその大半は、きっと『私』には――名もない登場人物にはぜんぜん必要のない知識だったんだろう。
人々の口から口へ伝えられ、紙から紙に刷られ書き写される物語。私達はその姿や力を、それぞれの才能に応じて借りるものになった。
そしてその中心には『世界』がある。持っている才能が最大限に発揮される自分の庭。
私達は誰だって自分の庭の名前を知っている。その名前こそが庭の形や風景や、そこを歩く時のルールを教える。
私のあまりよくない頭であの人の話を要約すれば、そういうことになる。
だから自分の名前のわからないものなんているわけがない。自分の庭のことを何も説明できないわけがない。
あの人はそう言った。そして聞いた。
『アンタは一体、何なんだ』
村に絵本なんてそれほど多くなくて、いつも他の子供と貸し借りして――もっと率直に言うなら、奪い合いながら読んでいた。
お店の手伝いが終わったらすぐ教会に駆け込んで、それでもボロボロの絵本が残っていることは少なくて。だからこそそれを大事に読んでいたのかもしれない。
お姫様のようにすてきな人と結婚したいとかきれいになりたいとかそうしたことを思って、その結末にだいたいは納得するような平々凡々な子供だった。
ここで少しでも違うことに思いを馳せるような子供だったら、もしかすれば今の私はいないのかもしれない。
思えばどんな物語にだって、名前をもらえない人がいる。時々人でもないけれど。おじいさん、おばあさん、お姫様、王子様、オオカミさん。それほどの呼び名さえもらえない、けれど絶対に必要な人たち。
例えば悪を倒す騎士の話があったなら、最初に悪さをされているのはだいたいそういう人たちだ。その人たちの元に騎士が駆けつけて、腕を見込まれて悪役を倒しに行く。
騎士が帰ってくれば大喜びして、めでたしめでたしと話は終わる。もし話が続いたとしてそこに描かれるのは騎士の話で、助けてもらった人の話じゃない。
騎士が会った人がどんなに以前会った人に似ていたって、それは同じ人じゃない。同じ人であることを読み手に考えられもしない。もちろん書き手だって、同じ人を登場させるなんて何かない限り考えない。
私が借りた姿はそういうものだった。
私にあったのはどこまでも平凡であることの才能で、平凡な人間には何もいらなかった。
普通の人は自分が何なのかなんて考えない。普通の人はただ繰り返すみたいに平凡な日常を送る。普通の人は生死とか存在とかじゃなくて、明日の夕飯なんかで悩む。
だからもう普通じゃない私は、そこにはいらなかった。
普通の『私』はぐるぐる回っている。かごの中で回し車を回すシマネズミにも似て、自分で作り上げた普通の日常をぐるぐると回り続けている。
でも『私』が私でもある限り、それは普通では有り得ない。普通の人間はゆらぎの世界に迷い込んだりしないし、あんな不思議でまとまりのないお客さんたち相手の接客もしないし、そのお客さんと同じくらいまとまりのない商品を置いて商売もしない。
だから私は『私』の目を覆い隠していた。おかしなことなんて何も映らないように。
自分が普通じゃないことに気付いてしまった人は、もう二度と普通には戻れないから。
けれど『私』はまた気付いてしまった。だからお店もおしまいだ。めでたしめでたしの終わりは今日も来ない。
だけどそうでなくとも、私にはそのおしまいをまだ延ばすことができる。
「……店長……店長?」
『私』には私の声が聞こえているはずだ。その耳に届く音が私と同じ声をしていなくとも、それは紛れもなく私の声だ。
数多の世界を渡りながらずっとこうしてきたし、これからもこうしていくだろう。『私』が普通であり続けるために。私がこの世にあり続けるために。
私はあの時、どんなものになってでも生きたいと心から願ったのだから。
STORY
ついに自らも金魚となってしまったさなえ金魚坂グループは終わりに思えた……そのとき!
「ごぼぼっ、ごぼぼぼっ!?」
さなえは素敵なものを目にする。炎を帯びたオリハルコンの接客マシンだ
「ハッチュウシマス……ノウヒンシマス……」
なんと金魚型接客マシンたちが、店の業務を始めたのだ!流石オリハルコン製といったところだ
(ああ……大丈夫なんだ……みんな、全部を任せて……金魚の知恵で……何も考えずに金魚鉢で……)
しかし、さなえの心に燃え上がるのは別の感情!
「ごぼぼっ、そんなわけあるか……わたしは、わたしの全てを、わたしの手でやり遂げる!」
さなえの……人間の手が接客マシンの腕を掴んだ
「……貸してみなさい。本気の経営ってやつを、見せてあげるよ」
そのころ、金魚坂本社の地下、金庫の鍵がみしりと軋んだ音を立てた……
――さあ、決算を始めよう――
◆訓練
笑顔の訓練をしました笑顔が33上昇した
笑顔の訓練をしました笑顔が36上昇した
◆送品
◆送金
◆破棄
無名は焼きたてふんわりバターロールパンを破棄した!
無名は自家製ホットワインを破棄した!
無名は我が蒼薔薇と人生を破棄した!
◆購入
無名は酩刻を686闇円で購入した!
無名は酩刻を686闇円で購入した!
無名は純米大吟醸を1372闇円で購入した!
◆作製
セールのチラシ44とセールのチラシ48を素材にして輝かしき最先端を作製した!
◆コンビニタイプ決定
ホワイト に決定!!
◆アセンブル
スロット1に失敗どぶろくを装備した
スロット2にキム●イプを装備した
スロット3に酩刻を装備した
スロット4に酩刻を装備した
スロット5に純米大吟醸を装備した
スロット6に刻沙を装備した
スロット7に改装のため一時閉店しますと書かれた紙を装備した
スロット8にいつもの看板商品を装備した
スロット9にパチモンカップヌードル(フィギュア付)を装備した
スロット10にすごいこっぺぱんを装備した
スロット11に門出の祝い膳を装備した
スロット12に輝かしき最先端を装備した
◆アイテム改名
◆アイテムアイコン変更
|
|
メッセージ
◆戦闘結果
売り上げ
闇円収入 3282
貢献収入 510
行動順報酬!! 20%
合計闇円収入4550
商品販売数 5個
◆経験値が55増加しました……
◆体力が33増加しました……
◆素材が本部から支給されました……
貢献収入 510
行動順報酬!! 20%
合計闇円収入4550
商品販売数 5個
◆経験値が55増加しました……
◆体力が33増加しました……
◆素材が本部から支給されました……
無名はくやしさのばね52を入手した!
無名はCM放送52を入手した!
無名は機転マニュアル52を入手した!
無名は新人マニュアル52を入手した!
キャラデータ
|
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
プロフィール
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
とある辺境の村にある、たった一軒の雑貨屋の看板娘。まとめもしない長い黒髪がトレードマーク。 ある日ある時の夕暮れ、黄昏時を通じて店ごと「夕闇国」に迷い込んだ。 心より己をそう信じて生きる、人の形をした人でないもの。 無名のまま死んだ魂たちを、意識もせぬうちに統べる少女。 何かに名を残すほどの害意も熱意も持つことのできない、無名を宿命づけられたまま生きる存在。 爛漫あるいは天然と呼ぶべき少女と、彼女にまったく認識されないままその側にいる無数の影たち――群像と名乗る存在で構成される群体である。 ―――― プロフ絵、IC0~6番:ゆゆづき様「キャラクターメーカー」で作成しております IC8~13番、23番:十con様ご提供のアイコンを使用しております | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
_0_1_2_3_4_5_6_7 _8_9101112131415 1617181920212223 |
店舗データ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|