ENo.0070　定桐 右子

　日に日に寒さが増して行く。
コンビニ店の窓から眺める夕闇国の風景はあまり変わり映えしないが、この寒さの強まりと行き交う人々の衣装が、確かに時の歩みを感じさせる。
思えば文緒がこのコンビニに来て以来、慌ただしいコンビニ経営であっと言う間に時間が過ぎて行った。
ただ、それは決して悪くないことだった。

（最初はコーラ専門店の野望を止められて腹を立てていたけど。）

　文緒に経営の仕方を指摘され、投げやりな態度も取ったが、彼の指摘は的確で。
その指導もあって、以前よりはコンビニ経営のノウハウも分かってきたし、商品が売れる流れやダメな流れなども掴めてきた。
恐らくは、文緒がコンビニ店を去っても、以前の様な大赤字の経営にはならないのではないだろうか。

（やっぱり、叔父さんの息子よね。）

　探偵として憧れた叔父、その息子である彼は…何と言うか、やはりいずれは立派な探偵になるのだろう、そんな人間だったのだ。
どうしても幼い頃のイメージが強く、認めることが出来なかったが、今では素直にそう思える。

「私も…頑張らなくちゃ。」

　文緒に助けて貰ったこのコンビニを潰さずに、そして上手く経営してゆくこと。
それはとても大切なことだ。
叔父にも、文緒にもこれ以上迷惑も心配もかけられない。

　ただ、私はコンビニ店の店長をずっと続けてゆくことに不安と躊躇いを抱いている。
あまりにも探偵になって働くという願望を長く持ち過ぎてしまったのだろう。
幼い頃の夢は叶わず、しかし未練を私に抱かせている。

（叔父とは違う探偵事務所でなら、働けるものね。）

　叔父には駄目出しを受けたし、実際自分でも探偵に不向きな性格だという自覚はある。
それでも、私は探偵の職をするに必要な免許も所持している。
夢を続けることは決して不可能ではないのだ。